長野県佐久市の「百笑農房」さん
標高約700メートルの長野県佐久市望月地区にある百笑農房さんは、岩瀬司さん・王玲さんご夫妻、それにスタッフ数名を加え、作業を行なっています。
愛知県のイチジク農家で育ち、いずれは農家になることを決めていた司さんと、元々農業は「家庭菜園程度で良かった」という兵庫県生まれの王玲さん。そんなお2人は2020年現在就農6年目を迎えました。
ビビッときた「オレンジチェリー」との出会い
佐久市で行われた農業体験ツアーがきっかけとなり、佐久市で就農することを決めたお2人。
最初はズッキーニやレタスなどを中心に栽培を行なっていました。しかし、ある時たまたま知人に「オレンジチェリー」の余った苗を譲ってもらったことが運命の始まりでした。
早速庭に植えてみたものの、栽培方法はもちろん、収穫のタイミングも分からない。それでも美しいオレンジ色の実がなったので口にしてみたところ、身体中に「ビビッ」と電気が走るような衝撃を受けた王玲さんは、早速そのことを司さんに伝えました。
最初は半信半疑だった司さんですが、実際食べてみると「これならいけるかも」と直感したとのこと。そこからお2人のチャレンジが始まりました。
「食用ほおずき」とは
「ほおずき」というと赤いものを想像するかたが多いと思いますが、こちらは観賞用で食べることはできません。
一方、ナス科の野菜に分類される食用ほおずきには大きく分けて以下の2種類があり、ガクの中にある丸い実を、生で食べることができます。
・オレンジ色で、フルーツのように食されるもの(オレンジチェリー・太陽の子・キャンディーランタンなど)
・緑色で、主にサルサソースの原料として使われるもの(トマティーヨなど)
▲フルーツのように食される「オレンジチェリー」
▲主にサルサソースの原料となる「トマティーヨ」
「食用ほおずき」は抗酸化作用が期待できるビタミンAを始め、鉄分、食物繊維などが豊富に含まれ、美容に良い「スーパーフード」として、近年注目を集めています。
通例がない「食用ほおずき」栽培
栽培は2月上旬の播種から始まります。プラグトレイに種を蒔き、20度前後に加温したハウスの中で約3か月かけて育苗を行ないます。そして霜の心配がなくなる5月中旬から下旬頃畑に定植します。
その後防草シートを張り、収穫時期となる8月下旬頃までは枝の誘引(ゆういん)などを行いながら成長を待ちます。誘引は茎やつるを支柱に結び付けて倒伏を防ぐための作業で、約200センチくらいまで成長する「食用ほおずき」栽培にとってはとても重要な過程。
さらに、こちらの畑は長いところで50メートルほどあるため、とても大変な作業になりますが、美味しい実を育てるため、欠かすことはできません。
畑の表面を覆うマルチは白いものを使用します。南米が原産といわれる「食用ほおずき」は、地温が上がり過ぎる環境に耐えられないため、白を使って抑制しています。
収穫から出荷までは約3~7日ほど
花が咲いてから約50日で収穫期を迎える「オレンジチェリー」。受粉はミツバチと風に頼っています。
1本の茎に複数の実をつける点は同じナス科のナスやトマトと同じ。茎の下の方から色づいていきます。
ガクがオレンジに色づいてきたら収穫期。収穫作業は司さんを中心に行なっています。
収穫後は約3日間風通しの良い木陰に干し、追熟させてから出荷となります。
この作業は8月下旬から11月上旬の霜が降りる時期まで続くそうです。
収穫が終わった畑は、防草シートやマルチをはがし、トラクターをかけて更地にして次のシーズンまで畑を休めます。本当は緑肥としてライ麦などを蒔きたい気持ちもあるそうですが、ライ麦の播種時期に間に合わないため、難しいとのことでした。
1番怖いのは「雹(ひょう)」
栽培を始めた当初、まだ生産者が少なかった「食用ほおずき」には、栽培方法の通例がありませんでした。6年目を迎えた今シーズンも、試行錯誤を繰り返しながらの日々です。
昨シーズンは、収穫期に直撃した台風による風の影響で、ほとんどの苗が倒れてしまったそうで、どうにか修復できたところもありますが、それ以外はあきらめるしかありませんでした。
どれだけ努力をしても自分ではどうしようもないことがおきるのが農業。それを改めて実感したそうです。
また、栽培を行う上で一番怖いのは「雹(ひょう)」とおっしゃる司さん。雨や雹を除けるためのネットの設置やハウス栽培の可能性を質問してみましたが、「蒸して気温が上がり、花が落ちてしまうので不向きだと思う」とおっしゃっていました。
生食用が出回る期間はたったの数か月
「オレンジチェリー」は、芳醇な香りが南国フルーツのようで、食べると凝縮された甘酸っぱさが口いっぱいに広がる、まさに「食べる宝石」!
そんな「オレンジチェリー」の生食用が出回る期間はたったの数か月しかありません。
そのため、その美味しさを通年で味わっていただきたいという想いから、コンポート、ドライフルーツ、ジュース、フルーツソースの販売も行なっています。加工はすべて委託ですが、どれも信頼できる業者さんにお願いし、ご夫妻の想いを引き継いで作ってくださっています。
これからのこと
現在、百笑農房さんでは3反の畑で約1,200本の「オレンジチェリー」を育てています。これだけ大規模で食用ほおずきの栽培を行なっている生産者は、全国でも珍しいのではないでしょうか。
その上こちらは有機JAS認証も取得されており、「有機オレンジチェリー」と名乗ることを許されています。
就農6年目を迎え、ようやく栽培サイクルが安定してきたところではありますが、その一方、獣害や、気候の変動による病害虫が増えてきたのが悩みとのこと。
有機JAS認証を取得することは1番の目的ではありませんが、お客様が安心して口にできる「オレンジチェリー」を作り続けるためにも、過剰な肥料や農薬は使いたくないと考えていらっしゃいます。
「今後は畑を複数にし、年単位で間隔を空けて栽培できるのが理想です」とおっしゃっていました。
百笑農房さんの「オレンジチェリー」は食べチョクで
食べチョクには、百笑農房さんの「オレンジチェリー」が販売されています。
残念ながら生食用は終了となりましたが、加工品は通年で販売していますので、百笑農房さんの想いがたくさん詰まったオレンジチェリーをぜひチェックしてくださいね。
工学部卒の元SE。
結婚後、「焼肉屋の嫁が野菜ソムリエっておもしろくない?」という興味で野菜ソムリエプロの資格を取得。その後もフードツーリズムマイスターやフードロスゼロ料理アドバイザーなどの食に関する資格を取得し、現在は自治体等と連携しながら農産物のPRや地産地消の推進、食育活動などを行なっている。