カレーや煮物、サラダやスープ……などなど、様々な料理に欠かせない野菜、人参。年中スーパーで見かける野菜ですが、実は冬野菜の仲間です。
旬の冬の時期に採れる人参は、何か味わいに違いがあるのか。そして、「オレンジ色」以外にも存在する多種多様な品種の人参は、どのような特徴があるのか・・・。
今回は、そんな味わうだけでなく”目”でも楽しめるカラフルな人参の魅力を、静岡県富士宮市でこちらの野菜を栽培している坂尻ハジメさんにお聞きしました。
・取材協力者:坂尻ハジメさん
「食卓の風景を変える〜見て美しく食べて美味しくなる野菜」をモットーに化学肥料や動物性堆肥を使用せず、地元の酒蔵から出る”酒粕”を利用した野菜の有機栽培に取り組まれている。
旬の人参は甘みが増す??
ーー冬の人参を食べると、年中売られているものよりも甘みが強い気がしたのですが・・・これは気候と何か関係があるのでしょうか?
坂尻さん(以下、坂尻) そうですね。植物は体内にたくさんの水分を蓄えています。冬のような寒い気候になると植物内の水分が凍り、凍死してしまう恐れがあるのです。そのため、植物は凍死しないよう、自身で体内のデンプンを糖に変えようと働きかけます(普通の水よりも甘い水の方が凝固点が低いため)。これによって、より甘味の増した人参が出来上がるのです。
ーーなるほど、甘みが強くなったように感じるのは、寒い冬を生き抜く植物の力によるものだったのですね。
オレンジ色の人参に多く含まれている色素成分・β−カロテンには、皮膚や粘膜を正常に維持する役割があり、免疫力を高める効果も期待できます。まさに、風邪が流行しやすい冬に食べたい食材ですね。
素材本来の味が楽しめる、カラフル人参
そんな坂尻さんが作る色鮮やかな人参は、富士山の麓、標高約250mの地域で作られています。豊富な雪解け水などを活用し、肥料は一切使わず「自然の力だけ」で栽培。霜がしっかりと降り、人参本来の甘さを引き出してから出荷されるため寒い時期のみの販売です。
ーー無肥料で栽培されているとは驚きました・・・!無肥料で栽培するために工夫されていることは何かあるのですか?
坂尻 人参栽培において特に重要なのが、発芽するまでの期間です。種蒔きをする時期が夏なので、水分をしっかりと確保し、雑草を抑えることがポイントになります。雑草を生えにくくするため、種蒔き前に最低でも2週間、太陽熱消毒という透明ビニールマルチをし、太陽の熱で地面を蒸し焼きにする方法を行っています。
ーーなるほど!自然の力を借りながら、人参が育ちやすい環境を整えることが重要なのですね。坂尻さんは多種多様な色や形の人参を栽培されていますが、どれくらいの種類が存在するのですか?
坂尻 具体的な数字はわからないのですが、かなり多くの種類が存在すると思います。そもそも人参の原産地はアフガニスタン周辺であり、日本で馴染みのあるオレンジ色ではなく白や薄い黄色、紫が原色であったと言われています。このアフガニスタンから東の方へと伝わった人参が東洋系の長いタイプ。西の方へと伝わった人参は西洋系の短いタイプに変化していきました。
ーーありがとうございます。日本で普段目にするオレンジ色の人参は原色ではないのですね・・・!とても勉強になりました。
そんな坂尻さんこだわりのカラフル人参を、筆者が実際にお取り寄せしてみました。
箱を開けるとまるで”おもちゃ箱”。色鮮やかなカラフル人参
早速届いた箱を開けてみるとびっくり。白に紫、黄、赤、黒・・・色とりどりの人参に思わず歓声が上がります。箱から出して数えてみると、その種類は全部で7種類。
〈各種にんじんの紹介〉
左から
・ダークパープル 中まで紫色ですが中心は少し黄色がかっています。
・スノースティック 真っ白な人参。生だと一番香りが強く、火を通すと水々しくジューシーな味わいを楽しむことができます。
・金美 ズングリとした濃い黄色の人参。生でも火を通しても美味しい万能タイプ。色が濃く、料理の彩りにもぴったりです。
・オレンジハーモニー 細長いオレンジ色の人参。甘みがあり食べやすい印象を受けます。
・パープルスティック 表面は紫色ですが、切ってみると中はオレンジ色の面白い人参です。しっかりとした甘みが特徴的です。
・真紅金時 京野菜として有名な赤オレンジの人参。
・イエローハーモニー 細長い薄い黄色の人参。生でも食べられますが、加熱するとより食べやすい印象に変化します。
早速いただいてみます!
まずはシンプルに食べ比べするため、オリーブオイルと塩・黒こしょうをふり、オーブンで約15分程グリルします。
一口食べてみると・・・どの種類も甘い。本当に甘くて驚きました。筆者の感想では、最もみずみずしく感じたのが「スノースティック」。人参とは思えないほどジューシーな味わいを楽しむことができました。
そして一番気に入った人参が「パープルスティック」。芋のようにホクホクとしており、とっても甘くパクパクと食べてしまいました。
ただ焼いただけなのですが、もうこれだけで立派な御馳走ですね。
他にもまだある。カラフル人参のおすすめの食べ方を紹介
旬の冬の人参は甘い。そんな人参を使って贅沢なポタージュはいかがでしょうか?
人参のポタージュ
砂糖などを入れなくても甘く、とても濃厚な味を楽しむことができます。人参の彩りも良く、色鮮やかに出来上がります。夕食にはもちろん、パン合わせて朝食にもぴったりです。
〜材料(作りやすい分量)〜
・人参 300g(今回はオレンジハーモニー・金美の2種類をミックスしました)
・玉ねぎ 100g(1/2個)
・水 200ml
・牛乳 300ml
・コンソメ顆粒 小さじ1
・有塩バター 20g
・塩 ひとつまみ
・トッピング(黒こしょう 少々 乾燥パセリ 少々)
〜作り方〜
1. 人参は皮付きのまま薄切りにします。玉ねぎは薄切りします。
2. 鍋に1、水、コンソメ顆粒を入れて中火にかけ、人参が柔らかくなるまで10分程煮込みます。
3. ミキサーに入れて混ぜ、なめらかになったら鍋に戻し入れます。
4. 牛乳、有塩バター、塩を入れて混ぜ、沸騰直前で火から下ろします。
5. 器に盛り付け、お好みで黒こしょう、乾燥パセリをかけて完成です。
※牛乳は沸騰すると分離する可能性がありますので、注意してください。
また、人参を綺麗な彩りを活用すると、料理が一気に華やかになります。
魚の南蛮漬け
オレンジハーモニーとイエローハーモニーの2種類を使用することで、彩りが更に良くなります。
真紅金時人参は、お正月頃によくスーパーなどでも売られ、比較的身近な品種ではないでしょうか。煮ると色がさらに濃くなり柔らかい印象になるのでおすすめです。
豚肉と人参の煮込み
今回は豚肉など他の食材と一緒に煮てみました。
もちろん生でも美味しく召し上がれるので、スティック状にしてバーニャカウダなどにつけて食べるのもおすすめですよ。
まとめ
いかがでしたか。
オレンジ色が定番の人参は、実は白や紫色が原色であること。そして旬の冬の人参が甘い理由を知ることができました。
栄養素も豊富に含まれる人参を料理に取り入れ、是非食卓を華やかにしてみてくださいね。
今回、取材にご協力いただいた坂尻さんカラフル人参はこちらからオンライン注文することができます。
・「からだにおいしい 野菜の便利帳 (便利帳シリーズ)」 ・JAグループHP|ニンジン|とれたて大百科 https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=9 ・JA富里市|にんじん https://www.ja-tomisato.or.jp/products/carrot.html ・一般社団法人 日本植物生理学会|冬野菜の糖度の件 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2140
滋賀県出身。管理栄養士・フードコーディネーター。「頑張る人たちを食で支えたい。毎日の小さな幸せを届けたい。」の思いを形にするべく、働きながらレシピ作成やライターとしても活動中。食と旅行が大好きな人。