愛知県東部に位置する東三河は、豊橋市をはじめ8市町村で構成されている地域。豊かな自然の恵み、そして日照時間の長さから、キャベツなどの野菜や畜産、漁業などが盛んであり、全国有数の農業地帯です。

 

そんな東三河の生産者と地域内外の飲食店や料理人、バイヤーとの出会いの場を提供する「プレミアムマッチング会」を東三河で開催いたしました。

 

会場は、東三河の食の発信拠点「emCAMPUS FOOD」と東三河生産者の圃場。東三河の風土や生産現場を実際に体感し、交流を通じて東三河の魅力を感じてもらうことが目的です。

 

東三河の生産者からのピッチと商談会、交流会、そして東三河圃場めぐり。2日間にわたって実施された、当日の様子をご紹介いたします。

 

食材に対する想いが溢れる、個性豊かな生産者ピッチ

 

地域外の飲食店のシェフやバイヤーなど15名が集って開催された1日目。最初に行われたのは、生産者の5分間ピッチです。

 

ラディッシュやさつまいもなどの野菜、レモンや柿などの果物、ハチミツや有機栽培茶、畜産など合計12組の生産者が登壇し、それぞれのこだわりや生産物の特徴、思いなどを発表しました。

 

 

途中、生産者自慢の食材も試食で配られ、話を聞きながら食材の香りやおいしさを体感できる時間に。参加者も、時折うなずいたりメモをとるなど、思い思いに楽しむ様子が見られました。

 

(豊橋市は市田柿の生産量が日本一。年中柿を楽しんでもらいたいという百年柿園ベル・ファームさんは、ドライ柿やチップス、ジャムなどの加工品を作っています。)

 

 

特に注目を集めたのは、キャベツやトウモロコシを栽培する、有限会社ホクシンの彦坂さん参加者がよく伝わったと感じた生産者に投票する「ピッチアワード」にて受賞しました。

 

愛知県はキャベツの名産地(生産量全国1位)ですが、彦坂さんの春キャベツは、通常よりも1ヶ月長く栽培することで、ずっしりとした重みと糖度10.5度の甘みが際立つキャベツができるのだとか。

 

提供された蒸しキャベツを食べてみると、えぐみがなくみずみずしくすっきり甘いことを体感しました。

 

 

ピッチ後は、生産者と参加者の1対1トークタイムです。

 

参加者は順番に各生産者のテーブルを周り、質問や商談のオファーなど様々なやりとりがされていました。

 

1対1トークが設けられるのは、東三河のプレミアムマッチング会ならでは。双方向のコミュニケーションを大事にすることで、深い絆が生まれ、より多くのコラボレーションが生まれるきっかけになります。

 

 

 

会場では、「消費者に生産地のリアルを知ってもらいたい。」という生産者の声が多く聞かれました。

 

作物作りは思った以上に繊細で、生産者の日々の努力によって、その味が守られています。大事に育てた作物を、より多くの人に食べてもらいたい、楽しんでもらいたいという想いを受け取ったシェフやバイヤーなどの参加者からは共感の声が寄せられ、複数のコラボレーションのきっかけが生まれました。

 

(屋上農園も見学。東三河の生産者の野菜や果樹が鉢に植えられており、ビルの上で畑の様子や作物の成長を楽しめます。)

 

東三河生産者の食材づくしの料理を楽しむ

商談会の後は、1日目最後のイベント・交流会です。

 

emCAMPUS FOODのシェフたちにより、東三河生産者の食材を使った20種類以上の料理をブッフェ形式で準備しました。

 

 

みずみずしい野菜サラダや一品料理、その場で切って提供される和牛ローストビーフ、お茶漬けやデザート、そしてドリンクなど。その中でも特に筆者が気になったのが、ラディッシュを使ったハニーマスタード和えです。ラディッシュの実だけでなく、葉や花も活かした盛り付けは、色鮮やかでとても華やかでした。

 

 

 

また、天ぷらは揚げたてが提供され、参加者はタラノメやアスパラガス、アレッタなどの旬食材をシンプルに味わいました

 

 

ドリンクでは、東三河の鈴木製茶さんが、その場でお茶を振る舞う場面も。焙煎方法にこだわり、すっきりとした味が特徴だという鈴木さんの特選ほうじ茶は、すっきりしながらも香りの余韻を感じられ、軽やかさに虜になりました。

 

 

食事と共に話す時間は、先ほどまでの商談会とは打って変わってアットホームな雰囲気に。

 

東三河の生産者が互いの食材を褒めあったり、参加者同士の情報交換などもみられ、食や農業を軸に、各分野で活躍する人たちが集う貴重な時間となりました。

 

 

東三河圃場めぐり

2日目は、生産者の圃場めぐりです。山ヨリ・街ヨリ・海ヨリの3エリアに分かれ、10組の生産現場を見学しました。

 

今回同行したのは3つの畑をめぐる「海ヨリエリア」。最初は美緑の風ファーム北河さんにお邪魔し、アスパラガスとスナップエンドウのハウスを見学しました。

 

 

ハウスの中に入ると、まず驚いたのが気温の高さ。アスパラガスは春の気温になると伸びてくるので、成長しやすい温度が保たれています。東三河地域は日照時間が全国トップレベルであることも、アスパラガスを育てやすい要因だそうです。

 

代表の北河さんは、謙虚な気持ちと、焦らずじっくり待ちアスパラガスが育ちやすい環境に整えることを大事にしているのだとか。特に土づくりにこだわっており、堆肥を使用せず、「ウッドチップ」を使って育てています。

 

 

北河さん:ウッドチップは近くの造園屋さんとの縁で手に入るようになりました。ウッドチップは木材なので植物由来の炭素を多く含んでいるんです。炭素は土壌中の菌によって分解され、自然由来の養分になり、虫や微生物たちが育っていく。その繰り返しで、まるで山の中のような生態系が、ハウスの中でできるようになったんです。

 

5年ほどの年月をかけ、じっくり作り上げた土壌によって、雑味のない上品な味のアスパラガスが作れるように。地元スーパーだけでなく、全国各地の飲食店などからも注文が入る、人気商品になりました。

 

(アスパラガスも太いものと細いもの、どちらも店頭に並べるようにするなど、それぞれのオーダーにあった商品を作ることを心がけておられます。)

 

 

 

また、スナップエンドウも、北河さんのこだわりが詰まっています。一般的なえんどう豆農家が使わない品種を扱い、大きく甘みもあるのが特徴です。ただ、時間をかけて生育する分回転率が悪く、栽培をやめようとしたことがあるのだとか。そんな時、ファンの方から「寂しい」という声があり、続けることにしたそうです。

 

北河さん:農業もどうせなら楽しんで、エンタメ性がある方が良いと思っています。おいしいものを届けたり、野菜について子供たちにも大人にもみんなに伝えていきたいです。

北河さんの人柄、そして作物を大切に育てておられる姿を知り、参加者との深い繋がりができた時間でした。

 

 

二つ目の農場はトマトを栽培する鈴木農園さんです。

 

 

1日目のマッチング会では、生ケチャップやトマトコーラなどの加工品を紹介した鈴木さんは、ご自身でも調理される料理が好き。キッチンカーを手がけたり、地域の飲食店とコラボしたラーメンを商品化するなど、様々な事柄に取り組んでいます。

 

鈴木さんが大事にしているのは、品種を守ること。昔ながらの酸味や青臭さも楽しめる「桃太郎」や「サンドパル」は、近年のフルーツトマトブームや病気に強い品種の登場によって、年々減少してきています。

試しに人気品種を10種類ほど栽培してみたものの、やっぱり「甘みと酸味のバランスの良さや風味のよさが違う。」と思い、今の品種に落ち着きました。

 

 

鈴木さん:10年ほどトマトを栽培してますが、毎年水の量を微調整することで、味の濃いトマトが出来上がってきました。それがトマト農家として当たり前だと思っていたのですが、同じ品種でも味が違う!と連絡をもらい、そこで自分のトマトの美味しさに気づきました。

 

(味が濃縮されたトマトは、果肉がしっかりしていて輪切りにしても水分がタレづらく、ハンバーガー屋などでも大人気なんだとか。)

 

また、東三河地域の生産者との横のつながりも強く、酪農家などと連携した土づくりや、互いの情報交換を大事にしている鈴木さん。規格外トマトに付加価値をつけるために、料理人や技術者と連携したり互いに助け合いながら経営されていることが、伝わってきました。

 

 

最後に伺ったのは、1日目のピッチアワードでも表彰された有限会社ホクシンさん。

 

 

代表の彦坂さんは、東三河の気候と人との繋がりを活かしながらキャベツ作りに取り組んでいます。

 

彦坂さん:ここの畑は海が近いため、強い風が吹いてます。そのため冬も霜が降りづらく、湿気が少ないのが特徴なんです。また、東三河の日照時間の長さや、酪農家との繋がりによって、土壌にまく有機物を補給しやすいことも助かっています。

 

一方で、海抜1m以下ということもあり、水はけの悪さが弱点にも。そのため、畑をあえて高畝にして水はけをよくする工夫や、苗の間隔を空けて、キャベツが光合成しやすいように工夫しています。

 

彦坂さん:野菜作りは子育てと一緒で、生産者はただ環境を整えてあげるだけ。そうやって大事に育てられたキャベツはしっかり根を張り、葉がしっかり巻いた健康的な子に育つのです。

 

 

 

(生育をギリギリまで伸ばして作られたキャベツは、シワがのび、表面がツヤっとハリがでているように思えます。)

 

また、近年の温暖化を活かし、夏だけでなく秋のトウモロコシ栽培にも挑戦されています。トウモロコシと同じイネ科の米用の肥料を試してみたところ、とっても良い効果があったのだとか。熱耐性が強くなり、枯れるまでの期間が伸びたそうです。

 

「消費者が野菜を選べるように、生産者と消費者をつなぐ流通や料理人に、畑の現実を知ってもらいたい。」と話す彦坂さん。季節の野菜は1年に1回しか挑戦できないからこそ、色々と工夫しながら、その時々の最適な方法を模索しています。

 

作物ができるまでのストーリーを伝えることで、値段ではなく、安心安全であることやおいしさで選ぶ人を増やしていくなかなか目では見えづらい魅力を消費者まで届けるには、フードクリエイターの協力が必要であり、密に連携して”一緒に”食材を届けていくことの大事さを感じました。

 

東三河生産者×地域外フードクリエイターの新しい可能性

 

2日間にわたって開催されたプレミアムマッチング会は、大盛況で終了しました。さまざまなジャンルで活躍するフードクリエイターが集まったからこそ、互いに良い刺激が生まれたのではないかと思います。

 

サーラ不動産株式会社は、「農・食を軸とした地域の活性化」を目的とした「東三河フードバレー構想」を推進しています。数多くの素晴らしい生産者に出会ったからこそ、フードビジネスに携わる人々を巻き込みながら、一次産業をさらに新しいものに創造していくことを目的に様々な取り組みが行われています。

 

今回の会場となったサーラ不動産が運営するemCAMPUS FOOD、そしてホテルアークリッシュ豊橋でも、日々の営業で東三河の食材を豊富に使用した料理が提供されています。

 

食と農に携わる人間として、自分に何ができるか。そんな問いを強く感じ、これからも自分だからこそできることを模索していこうと思います。

 

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